私たちの生活には「AI(人工知能)」を活用したサービスが広がり始めています。文字入力の予測変換、車や電車の自動運転、家具を認識して自動で避けるロボット掃除機というように、人間の暮らしに大きな変化を与えているAI。今後さらなる発展を遂げて訪れると考えられている「シンギュラリティ」や、IT技術の進歩に伴う雇用や求められるスキルの変化についてお伝えします。
記事の概要
シンギュラリティとは
AI(人工知能)が人類の知能を超える日が来る―。
「シンギュラリティ」は人類よりも機械やロボットが世界を動かし、過去の概念を覆すような転換点「技術的特異点」を指す言葉です。人工知能は1950年代から研究が進められており、その歴史は70年以上。第一次・第二次ブームを経て、AI搭載ロボット「Pepper」の登場やチェス専用コンピューターが人間に勝利するなど、現代は第三次AIブームといえる時期となっています。
人間の手作業では難しかった大量のデータ解析も、AIの発展を支えた「ディープラーニング(深層学習)」によって今では短時間で可能となりました。IT技術やAIテクノロジー、生命科学関連の発展が進むと、AIの技術が人間よりも賢い知能を得る未来が来るのではないかと言われています。
シンギュラリティが起こるのは2045年?
いつシンギュラリティが起こるのか。「集積回路の複雑さは毎年2倍になる」という「ムーアの法則」や、レイ・カーツワイル氏のコンピューターの計算能力が乗法的に加速する「収穫加速の法則」などを踏まえると、2045年説が有力視されています。一方で、2045年以外の説や発生そのものを否定する説もあります。
2045年説
ムーアの法則が正しいと仮定すると、AIの元となる半導体の処理能力は凄まじい勢いで加速し、いずれ人類の能力を超えるときが来ると考えられます。また、「収穫加速の法則」を唱えたカールワイツ氏の考えは、新たな技術や発明がさらなる発展を生み出し、過去の延長線上よりはるか上を行くものです。総合的に考えると、革命的な大転換が起こるのは2045年という説が有力です。カーツワイル氏は、「2029年にはコンピューターと人間が並び、2030年にはコンピューターが人間を追い抜く」とも述べており、すでに「プレ・シンギュラリティ」は始まりを迎えていると考える人もいます。
シンギュラリティ発生否定説
まるでSFの世界がやってくるかのようなシンギュラリティですが、現実社会における発生そのものを疑っている学者もいます。スタンフォード大学教授のジェリー・カプラン氏は、人工知能と人間を同一視する見方を否定し、「人工知能は人間と同じような思考はできない」という考えを示しています。ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏は、「知性は人間の非生物的・感覚的な部分。人工知能とは異なる」とし、人類が持つ「意識」や「自我」をAIは持つことができないと考えています。あくまでAIは人間のためにあるロボット。映画やドラマ作品の影響もあり、結果的にメディアが危機感を煽っているという考えも根強く残っているのです。
2045年問題で起こりうる変化
無人コンビニの登場や銀行窓口の減少など、私たちの雇用や暮らしに変化が起きているのは事実です。シンギュラリティが起こるとされる2045年にはさまざまな変化が起こるとされ、「2045年問題」とも言われます。どのような変化が起こるのか、主な課題を挙げていきます。
雇用の変化
代替可能な仕事は求人が激減
シンギュラリティが起こり私たちの日常生活に与える影響として、雇用の変化が挙げられます。産業革命により手作業から機械工業へと変化したように、人工知能の台頭によってなくなる仕事があるとされています。先述のレジ店員や窓口業務以外にも、一般事務や行政事務などの事務作業、経理事務・速記作業・CADオペレーター・検針員などが挙げられます。人間からAIへの代替が可能であり、人件費などコストダウンにつながるとなれば企業は雇用を制限することは必須。既存の仕事が今後も変わらずあるという保証はなくなり、求人が減って失業者が増えることも予測されます。就職氷河期のように、大学や専門学校を卒業しても就職活動を続けなければならない可能性があるのです。
AIの発展による新たな雇用の創出も
AIによってなくなる仕事がある一方で、今後もなくならない仕事、新たに必要とされる仕事もあります。医者や教師、カウンセラー、ケアマネジャー、ゲームクリエイター、保育士などは代替される可能性が低い仕事の一例です。芸術分野や哲学、神学・考古学といった研究領域も、世界最高水準の人工知能をもってしても完全な代替は難しいと考えられます。人間がもつ感覚や新たな発想が必要な仕事はやはり人間にしかできない役割であり、AIはあくまでサポートの立場となります。
新たに生まれる雇用としては、AIを活用してデータ分析をすすめるAIデータサイエンティストやAI事業責任者などが考えられ、AIを使いこなせる人材育成対策が急務です。社会や企業全体のデジタル化(DX、デジタルトランスフォーメーション)により、システムエンジニアやネットワークエンジニア、プログラマーは今まさに人材不足が叫ばれています。新たなシステム開発にはプログラミング言語に詳しくネットワークセキュリティに強い人材確保が課題です。製造業・金融業・通信業・建設業といった分野だけでなく、医療・福祉・教育など、どの産業界でも必要とされています。
賃金形態の変化
AIの発展は雇用や人事だけでなく、次世代の働き方そのものを変える可能性があります。AIやロボットが効率よく働いてくれることは、人間が労働から解放されるという側面も。シンギュラリティが起こる時代を予想して、「ベーシックインカム導入」についての議論も盛んになってきました。ベーシックインカムはすべての国民に一律にお金が支給され、貧富の差や貧困問題解消につながると注目されています。多くの国民が恩恵を受けますが、労働へのモチベーションが下がり、国力の低下や財源確保などが問題となり、実現には多くの壁があることも確かです。
人間の体への変化
シンギュラリティは社会生活や仕組みだけでなく、人間の体を変える可能性があります。すでに実用化されているマイクロチップの埋め込みや脳波を利用した義手などもAIによるものです。これまで解明されていない脳や臓器の仕組みを人工知能によって代替できるとなれば、長寿や不老不死が現実となるかもしれません。高齢化社会における認知症や介護の問題解決の糸口がAIであるという希望もあるのです。
新時代に求められるスキル
新しい時代に必要なスキル
今でこそスマートフォンや無料動画配信サービス、音声認識による翻訳技術、ドローンなどが普及していますが、20年前には考えられないことでした。専門学校や大学に通う留学生も、AIを活用した翻訳機能アプリで会話が成り立ち、意思疎通がしやすくなっています。IT技術やAIの進歩を考えると、今から20年後は想像のはるか上を行く出来事があってもおかしくありません。シンギュラリティが起こる・起こらないに関わらず、これまでの常識や環境は通用しない新時代が来ているのです。
ビジネスにおいてもITスキルを高めることが求められ、ビッグデータやクラウドサービス、VR、3Dプリンターなどさまざまな新技術を活用していく必要があります。社会人として変化の激しい社会を生き残るため、さらに新たな事業やイノベーションを起こすためのスキルをご紹介します。
情報収集能力
インターネットの普及により私たちが目にする情報量は爆発的に増えており、20年前の5000倍とも6000倍とも言われています。本当に必要な情報か、確かな情報かを見極めて正しい状況把握が求められます。
主体性と実行力
新たな時代の到来において、これまでと同じ仕事や方法ばかりでは進歩がありません。受け身ではなく自ら動き、スピードをもって実行できる力が求められてきます。準備周到な計画よりも一歩踏み出し走りながら軌道修正していく。関わる人々の人間関係を構築していくコミュニケーション能力もAIにはまだできないことです。社会のニーズを見極め、人々を巻き込み、失敗を恐れずチャレンジしてこそイノベーションが生まれていくのです。
企画力と創造力
大量のデータ処理や単純作業、知識の蓄積などをAIに任せると、人間ができることは社会の仕組みを変え、新しい人間の生活をデザインすることです。機械やロボットによる便利な時代が来る一方で、新たな課題や価値観の創出、生き方の変化、自然との共存、世界中の人々をつなぐ力といった「人間らしさ」も失ってはいけないもの。自ら学びを続けられる人間だからこそ備わっているアイデアや企画力、創造力を磨くことが大切です。
シンギュラリティを見据えた新たな教育
新たな時代に適したビジネススキルを身につけるためにも、学生が受ける教育やカリキュラムは変わる必要があります。AI社会に適応できる人材を育成するため、文部科学省では「STEAM教育」を掲げています。
STEAM教育
「Science(科学)」・「Technology(技術)」・「Engineering(工学)」・「Art(芸術)」・「Mathematics(数学)」
たとえAIが活躍する時代になったとしても、プログラムして操作するのは私たち人間。データ分析が得意なAIを扱うには、数学や統計学、アナリティクスを理解することが必要です。動物の中でも知的好奇心がある人間だからこそ、長い歴史を経て進化してきました。今後は科学・技術・工学・芸術・数学の分野に特に力を入れ、AIと共存しながら人間が人間として生きる力を備えることが大切です。
おわりに
本記事では、AIの発展によって起こると考えられている「シンギュラリティ」や社会の動向、新時代に必要なスキルや教育についてご紹介しました。
価値観が大きく変わる世の中に適応し、新たなイノベーションを起こすのは今の高校生や10代・20代の皆さんです。AIに関するイベントがあればぜひ参加して、最新技術を体験することもオススメです。新たな時代に向けて高度なITスキルを身につけ、AIを使いこなせるスペシャリストを目指しましょう。