グラフィックデザイナーは商品開発や広告制作において重要な役割を果たす仕事です。雑誌や書籍の表紙、商品パッケージ、ポスターや看板など、一目で興味・関心をひくような作品を作り出します。商品やサービスの売上に直結する仕事のため、クリエイティブで華やかな印象がある一方で、デザインが完成するまでは多くの工程と細かな作業の連続です。今回はグラフィックデザイナーという職業について、仕事内容やなるまでの道のり、必要なスキルなどを解説します。
記事の概要
商品開発や広告制作を支えるグラフィックデザイナー
駅や街中で見かけるポスターや広告、パンフレットや雑誌など、私たちの生活の中にはグラフィックデザイナーによる制作物であふれています。特徴あるデザインでブランドをすぐに思い出したり、ポスターを見て思わず商品を手にとったり、人々の行動や消費活動に関わる仕事です。
グラフィックデザイナーは広告会社やデザイン関連会社、雑誌の広報部や宣伝部などで勤務し、実績を積むとフリーランスやディレクターとして活躍することも可能です。グラフィックデザイナーは、自分が表現したいものを表現するのではなく、あくまでクライアントの意向や要件に沿うようなデザインを作り上げることが求められます。芸術(アート)としての評価よりも、売上向上やイベントの認知拡大など、クライアントのプラスになる作品かどうかが大切です。
グラフィックデザイナーとイラストレーターの違い
イラストレーターはさまざまなタッチのイラストをクライアントの要望によって描き分け、挿絵や表紙を作り出します。グラフィックデザイナーはイラスト以外にも文字や構成デザインによって制作物を作り出し、必ずイラストを入れるわけではありません。文字の体裁を整える「タイポグラフィ」の技術や空間構成、色彩など、メッセージを平面のキャンパスでいかに表現するか、イラスト以外のデザインで勝負する仕事です。
仕事の種類とグラフィックデザイナーになるまでの道のり
グラフィックデザイナーの仕事は多岐にわたり、さまざまな専門分野に分かれます。動画や各種SNSなどデジタルメディアの浸透により、文字やアニメを組み合わせて動画を制作する「モーショングラフィックス」といった新たな分野を専門にするデザイナーも増えています。キャリアを積んで自分の得意分野を構築することも可能ですので、主な種類をいくつかご紹介します。
仕事の種類
1.広告デザイン
広告業界におけるグラフィックデザイナーの仕事は、広告キャンペーンのデザイン、ポスター、デジタル広告、テレビ広告などがあります。魅力的な広告を制作し、製品やサービスを宣伝する役割を果たします。
2.パッケージデザイン
製品独自の魅力を高め、差別化を図る重要な仕事です。製品のパッケージ、ラベル、ボトルデザインなどを制作し、消費者の目を引きます。
3.ウェブデザイン
ウェブサイトやデジタルコンテンツ、アプリケーションなどのデザインを担当します。これにはユーザーインターフェース(UI)デザイン、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン、バナー広告などが含まれます。
4.印刷物デザイン
ビジネスやイベント宣伝用として使用されるパンフレット、チラシ、カタログ、冊子、ポスター、名刺などをデザインします。
5.コーポレートアイデンティティデザイン
ロゴデザイン、ブランドカラー、名刺、封筒などをデザインし、企業やブランドのアイデンティティを構築します。一目で「あのブランドだ」とわかるような一貫性のあるブランドイメージを維持します。
6.パターンデザイン
テキスタイル(染織)デザイン、壁紙、衣料品のパターン、カーペットデザインなど、ファッションやインテリアデザインの分野で活躍します。
7.エディトリアルデザイン
書籍、雑誌、新聞、電子書籍のデザインはエディトリアルデザイナーによって行われます。文章や画像の配置、フォントの選択、ページのデザインなどが含まれます。
8.映画グラフィックデザイン
映画の広告ポスター、映画タイトル、エンドクレジットデザイン、特殊効果のグラフィックスなどを担当します。
9.ゲームデザイン
キャラクターデザイン、ゲームUI、背景イラスト、ゲーム広告など、ゲーム開発では多くのグラフィックデザイン要素が必要です。
これらは一部の例であり、グラフィックデザイナーの仕事は他にもさまざまな分野で見られます。選択した分野や特性によって、異なるスキルとアプローチが求められることがあります。趣味や情熱に合わせて、自分にとって最適な分野を見つけることが重要です。
具体的な仕事内容
1)クライアントとの打ち合わせ(ヒアリング)
仕事の依頼が入ったら、まずはクライアントとの打ち合わせをセッティングします。商品や広告の目的を共有し、「ふわっとした感じに」「若い年代に響くような」といったクライアントの抽象的な表現をより具体的にリサーチしていきます。対象とするターゲットの年代や方向性を確認し、コンセプト作成や土台となるラフデザインを作成します。
2)デザイン制作
クライアントへテーマやコンセプトのプレゼンテーションを行い、ラフデザインにOKサインが出たら本格的なデザイン制作に移ります。風景写真やイラストなどの素材を揃え、クライアントの要望に合うよう、複数のパターンで制作するのが主流です。グラフィックデザイナーだけでなく、コピーライターやカメラマンといった専門家とチームを組むことも多々あり、進行状況を確認しながら作業を進めていきます。
3)デザイン修正
クライアントにデザイン制作を提出し、複数の案がある場合はどのパターンで進めるかをチェックします。細かな点を修正し、クライアントのOKサインが出るまで作業を進めます。紙媒体の場合は印刷会社とのやりとりも入ってくるため、納期に間に合うようスピーディさも求められます。
4)納品・最終チェック
修正箇所をクライアントに確認してもらい、最終チェックが終わったら納品完了となります。実際の制作物がクライアントから送られてきたり、街中で作品を見かけたりすると、グラフィックデザイナーとしての達成感を味わうことができます。
グラフィックデザイナーになるには
グラフィックデザイナーは美術やデザインの知識が必要不可欠な仕事です。「未経験歓迎」という求人もありますが、アシスタントとして現場でスキルを習得する必要があります。しかし、誰もが最初は初心者。グラフィックデザイナーという目標に向かうための進路選択肢をご紹介します。
1)美術系大学への進学
美術系大学では、デザイナーに必要な専門知識の他、英語や情報処理など社会人として必要な教養も幅広く学ぶことができます。デザイン重視の経済活動が活発化しており、美大出身であることは就職活動にプラスとなる傾向になっています。
2)デザイン系専門学校への進学
グラフィックデザインやパソコンスキルなど、現場で必要な知識と技術を大学よりも実践的に身につけることができます。企業と連携して作品を作ることもあり、学生のうちから即戦力となる高いスキルを学べます。
3)独学で学ぶ
パソコンやインターネットの普及により、デザインや美術の知識をオンラインで学ぶ機会も増えています。自分の生活リズムやペースに合わせて学べますが、企業との接点や実践的な機会は少なく、自己アピールの機会を自ら作り出す積極性が必要です。
大学や専門学校在学中に専門知識を深め、卒業までに作品集(ポートフォリオ)を作成し、インターンシップやコンテストなどにも積極的に参加しましょう。デザイン会社や広告会社へアピールし、関連企業へ就職することでグラフィックデザイナーとしての一歩を踏み出すことができるのです。
グラフィックデザイナーに必要なスキルや資質
「グラフィックデザイナー」として働く場合、国家資格や免許は必要ありません。ただし、パソコンやグラフィックソフトを使いこなせることが仕事上必須となりますので、「Illustrator®」や「Photoshop®」、デザインの基礎を習得し、実力を示すことが就職活動では必要になります。創造力を持ち合わせていることも就職活動においてはプラスになりますので、創造力を身につける勉強をしておくことをおすすめします。
グラフィックデザイナーに求められる知識や資質
クライアントの要望に応えて作品を生み出すグラフィックデザイナーは、創造性や美的センスがいる仕事です。華やかさがある一方で、アイデアを生む辛さを乗り越え、細かな作業を続ける気力や体力も求められます。流行や時代を先読みしたり、古き良きものからもヒントを得たり、常に自分の実力を高める努力も必要です。
*クリエイティビティ
さまざまなことからヒントを得て、新しいアイデアを生み出します。クリエイティビティを刺激する方法やアイデアの発想法についても学生のうちから触れておきましょう。
*コミュニケーションスキル
グラフィックデザイナーはクライアントの要望を理解し、デザインのコンセプトや意図を説明するスキルが求められます。フィードバックを受け入れ、他のメンバーとの効果的なコラボレーションが成功への鍵となりますので、コミュニケーション能力も必要です。
*忍耐と柔軟性
デザインプロジェクトはしばしば時間がかかることがあり、要求事項が変更されることもよくあります。忍耐力と柔軟性を持ち、プロジェクトの遅延や修正が発生した場合、冷静に対処できるスキルも重要です。
*ビジュアルリテラシー
カラーセンス、デザインの原則、視覚的なコミュニケーションの理解など、ビジュアルリテラシーを磨くことも重要です。デザインの意味や影響について考え、視覚的なメッセージを効果的に伝える能力を身につけましょう。
*プロジェクト管理能力
デザインプロジェクトは期限が設定され、リソースが制約されることが多いため、プロジェクト管理能力も重要です。スケジュール管理や予算管理に関するスキルを発展させ、プロジェクトを成功に導くために必要な計画と組織力を習得しましょう。
おわりに
グラフィックデザインの道は多様で、様々な分野で活躍できます。自身の興味や特性に合わせて専門化することで、自分らしいキャリアを築くことができます。独学でグラフィックデザイナーになることもできますが、やはり美術系大学やデザイン系の専門学校はカリキュラムが整っており、学びやすい環境です。一生もののスキルを身につけ、日本国内だけでなく、世界中で仕事ができるグラフィックデザイナーを目指していきましょう。