テクノロジーの進歩により、私たちの前に広がり始めた仮想現実世界「メタバース」。メタバースの考え方はどこから生まれ、どこへ向かうのでしょうか?新たな経済圏の形成や労働環境の変化など、これから社会を担う世代の皆さんは今後の動向を注視する必要があります。今回の記事ではメタバースの現在の状況と起源を知り、未来に向けて社会に与える影響を考えていきます。
記事の概要
メタバースの現在
メタバースに関する海外企業の取り組み
急成長を遂げているメタバースは、現在さまざまなプラットフォームや技術が開発されています。バーチャルリアリティヘッドセットやスマートフォンを介してアクセスし、仮想空間内でのゲームプレイやコミュニケーション、研修や教育活動、創造的な活動など、多様な体験を提供しています。また、大手企業やテクノロジーのリーダーたちは、自社のメタバースを構築することに注力し、新たなビジネスモデルや消費者との関係構築を試みています。国内外の多くの企業がメタバースの開発や展開に取り組んでいる今、海外の主要企業の動きについて一例をご紹介します。
●メタ(Meta)
かつて「Facebook」として知られていた「Meta」は、メタバースの開発に力を入れています。社名変更は本気度の現れと言われ、仮想現実ヘッドセット「Oculus」を手がける「Oculus VR」を買収し、メタバース発展を目指しています。メタバース内でのソーシャルエクスペリエンス(社会的経験)やビジネス活動を推進し、広範なプラットフォームとしての存在感を高めています。
●Epic Games
Epic Gamesは、人気のあるゲームエンジン「Unreal Engine」の開発元として知られており、最近ではメタバースの開発にも注力しています。「フォートナイト」という人気ゲームを通じて広大な仮想空間を提供し、人気アーティストのライブイベントや仮想コンサートなどを開催。世界中から累計数千万人ものユーザーが参加したこともあり、過去にないエンターテイメント体験を実現しています。
●Microsoft
メタバースの研究と開発に取り組んでいるMicrosoftは、2014年に「マインクラフト」を買収。仮想世界に今後の可能性を感じていた企業の一つです。「マイクロソフトメッシュ」と呼ばれるプラットフォームを開発し、リアルタイムのコラボレーションやメタバース内での共有体験を可能にする技術を提供しています。「Meta」との連携により、使いやすさや没入感を高める専門技術を結集し、さらに魅力的なメタバース体験を生み出しています。
国内企業の動き
日本国内でもメタバースに関連する取り組みが行われています。例えば、皆さんにとって身近なツールである「LINE」は、「LINEブラウンファーム」というメタバース型の農業シミュレーションゲームを展開。ユーザーが仮想農園を経営する体験を提供しています。サイバーエージェントが運営する「Ameba VR」は、メタバース内でのアバターコミュニケーションや仮想空間でのイベント開催を実現しています。
これらの企業は、それぞれ独自の技術やプラットフォームを活用しながら、ユーザーに没入型で豊かなメタバース体験を提供することを目指しています。メタバースは今後さらに発展し、より多様な産業や分野に影響を与えることが予想されます。企業はユーザーのニーズや社会の変化に対応しながら、より魅力的で持続可能なメタバースを構築することが求められています。
メタバースのはじまりとは
小説内で描かれていたメタバース
現実世界に生きる人間が魅力を抱く「仮想現実」という世界観は、どこから生まれたのでしょうか。CGを活用したバーチャルな空間で人間が過ごすという発想自体は、1960年代以降のSF作品で用いられており、「メタバース」というフレーズが登場したのは1992年のこと。ニール・スティーヴンスンの小説『スノウ・クラッシュ』で初めて使われたことが知られています(小説内では「メタヴァース」)。ピザのデリバリーとして働いている主人公の別の職業は「フリーランスハッカー」。自宅へ帰ると、今で言うVRゴーグルとイヤホンをつけ、コンピュータが作り出す仮想現実の世界で過ごす様子が描かれています。多くの人々が仕事や遊びをそこで行い、交流する描写は現在のAIの活躍を予見したかのような仮想世界そのものであり、VRゴーグルの開発者は「スノウ・クラッシュ」の世界観を商品開発に活かしたと述べています。
1990年代初めは、インターネットの普及とともに、複数のプレイヤーが同時に参加できる「マルチユーザーオンラインゲーム」が台頭した時期です。初期のオンラインゲームは、2Dグラフィックスやテキストベースのものが主流でしたが、ITや科学技術の進歩に伴い3Dグラフィックスやバーチャルリアリティの技術が登場します。プレイヤーが仮想空間で他のプレイヤーと対話したり、競い合ったりすることが可能になり、より高度なグラフィックスの登場により没入感も高くなる傾向に。リアルな体験や仮想世界での自由な行動が可能になり、メタバース構築への道が開かれました。
メタバースの先駆け
1990年代後半には、メタバースの先駆けとなるようなプラットフォームが登場しました。例えば、リチャード・バートンが開発した「ハビタット」という仮想世界は、ユーザーが自分自身をアバターとして表現し、他のアバターとインタラクションすることができるものでした。また、1999年には「セカンドライフ」という仮想世界が公開され、ユーザーは自分自身のアバターを操作し、仮想空間内での生活やビジネスを行うことができました。
このような先駆的なプラットフォームの成功により、メタバースの概念と実現可能性に関心が集まりました。2010年代になると、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術が急速に進歩したことで、メタバースの実現が現実味を帯びてきました。2021年10月には、フェイスブックが社名を「メタ」に変更し、メタバース事業に注力することを発表。コアなユーザーやビジネスチャンスを模索する企業だけでなく、世界中の注目を集めています。
アバターのままアルバイトも!メタバースと経済
メタバースがもたらす最も大きな影響の一つは、経済活動の変革です。メタバース内での仮想通貨や仮想商品の流通は、現実の経済と密接に関連しています。一部のメタバースでは、プレイヤーは仮想の土地やアイテムを購入し、それらを他のプレイヤーに売買することができます。また、メタバース内でのアバターの能力や外見を強化するアイテムやスキルの販売も盛んであり、これによって個々のアバターの価値や競争力が形成されています。仮想通貨の存在は、メタバース内での取引や経済活動を円滑化し、独自の経済システムを築く基盤でもあります。メタバース内での経済活動が発展し、現実世界と同様に資産や収益を得ることが可能となれば、今後ますますユーザーが増えることが予想されます。
自宅にいながらメタバース内へ「出勤」
メタバース内ではアルバイトやビジネス活動も増加しています。アバターを使った仕事としては、ゲーム内でのモンスター討伐やクエストの達成、イベント案内などがあります。実在する会社や場所に行くのではなく、出勤場所はインターネット内のメタバース。そのため、自宅や好きな場所で働くことができます。これらの活動によって得られる報酬は、現実世界の経済的価値を持つこともあり、アバターを使うことに慣れ親しんでいる学生なら現実のアルバイトと同じような感覚で働き、活躍することができます。労働の柔軟性や多様性が増し、新たな働き方の選択肢の一つとして広がっています。
さらに、メタバースは社会の結びつきやコミュニケーションにも大きな影響を与えています。メタバース内では、地理的な制約がないため、世界中の人々がリアルタイムで交流し、共有することが可能です。アバターを通じた身体的な特性や外見の制約もありません。人々はより自由に自己表現を行い、異なるアイデンティティやパーソナリティを体験することができます。異なる地域や文化の人々が仮想空間で出会い、コミュニティを形成し、共同作業やイベントを開催することができます。このようなメタバース内の交流は、現実世界では困難な距離や言語の壁を取り払い、グローバルなつながりを促進しています。
しかしながら、メタバースの普及と経済活動の拡大にはリスクやデメリットも存在します。仮想通貨や仮想商品の流通は、現実世界の経済との関連性が深まる一方で、価値の不安定性や詐欺の危険性を伴います。メタバース内の経済活動における収益や財産の取り扱いに関する法的整備も追いついておらず、財産保護の必要性が浮上しています。さらに、メタバースが人々の現実世界との関わりを希薄にする可能性もあり、社会的孤立や現実逃避の問題など、山積する課題をどれだけクリアできるかが普及と発展のカギと言えるでしょう。
おわりに
メタバースは現代テクノロジーの進歩によって形成された新たな領域であり、経済や社会に多大な影響を与えていく可能性があります。経済活動の変革や働き方の多様化が進み、人々のコミュニケーションや自己表現の幅も広がっていくことでしょう。しかし、今後は法的な規制や倫理的な枠組みの整備が求められます。私たちは、メタバースの可能性を最大限に活かしつつ、持続可能で包括的な社会の構築に向けて努力を続ける必要があります。