メタバースの発展は、地域や人種の枠を超えたコミュニケーションの広がりや創造性の発揮、ビジネスの拡大など、私たちの日常生活や社会に多くのメリットをもたらすことが期待されています。一方、プライバシーやセキュリティの懸念、現実世界とのバランスの問題、デジタル格差などさまざまなデメリットも存在します。持続可能なメタバースの発展を進めるためには、倫理的なガイドラインの策定や社会的な議論が不可欠です。今回は、メタバースの発展に伴うメリットとデメリットについてご紹介いたします。
記事の概要
メタバースで起きていることとは
自分を自由に表現できる「アバター」の世界
仙台から東京までは新幹線で約2時間。でも、メタバースなら「バーチャル渋谷」へ10秒でアクセス。さらに、日本を飛び出して海外へ―。まるで「どこでもドア」のような、現実世界の物理的制約を超えて広がる仮想空間・「メタバース」。仮想空間上の広大な世界で、ユーザーは自分の分身(アバター)を作成し、他の人々と交流したり、ビジネスやイベントに参加したりすることができます。
自分の分身となる「アバター」は、外見や特性、スキルなどを個別にカスタマイズすることができ、自己表現の手段となります。「〇〇だから」といった先入観や偏見が少なくなり、現実世界では困難な距離や時間の制約を超えて、多様な人々とのつながりを体験できるのです。
朝起きたらすぐにVRゴーグルをつけ、寝るときもユーザー同士で会話を楽しみ、ゴーグルをつけたまま寝落ちしてしまった。そんなヘビーユーザーもいるほど、メタバースはより没入感のある体験を提供できるようになりました。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)技術の進歩により、音声やテキストチャット、ジェスチャー、絵文字などの手段を通じて、表現豊かなコミュニケーションが可能です。アバター同士での対話も、リアルで会って話す感覚にどんどん近くなっています。
メタバースで広がるビジネス事例
メタバースは創造性を発揮する場でもあります。ユーザーは自分自身や環境、建物などの要素をデザインしたり、新たなコンテンツやエンターテイメントを創作したりすることができます。企業活動も展開されており、販促イベントやオンラインでの展示会などが多数企画されるようになりました。世界規模での市場拡大や顧客層にアクセスするための新たなプラットフォームとして、どのようなビジネスモデルを構築するか、どのような分野と提携できるのか、研究と検証が行われています。
●百貨店
三越伊勢丹が運営している「REV WORLDS」は、スマートフォン向けアプリのため誰でもいつでも「来店」することができます。仮想空間ならではの売り場や独自の世界観をコンテンツとして展開し、新規のお客様だけでなく顧客も満足できるようなビジネス利用を模索しています。お気に入りが見つかればすぐにオンラインストアで購入でき、現地に行けない地方のユーザーにも好評です。
●住宅会社
大和ハウス工業は住宅購入の参考となるモデルハウス見学をメタバース上で実施しています。VRや3D技術を最大限に活用し、インテリアの配置や色替え、最新設備の紹介などが可能です。お客様からのリクエストにも即座に対応し、住んだときのイメージが浮かびやすくなり、質問や相談にもアバターを通して答えるというシステムを採用しています。
●バーチャル会議
メタバースの飛躍を見越して社名変更をしたことで話題の「Meta」は、「Horizon Workrooms」というバーチャルオフィスを提供しています。リモートワークでもミーティングやプレゼンテーションがリアルと同じ感覚でできるよう、VRヘッドなどがなくてもビデオ通話で参加可能になっています。PC画面の工夫やホワイトボードなども使いやすくなり、働き方の変化に対応できるシステムです。
メタバースのメリット
1 コミュニケーションの拡大
メタバースは、地理的な距離を超えて人々がつながる新たな手段を提供します。物理的な移動や言語の壁を乗り越え、異なる文化や背景を持つ人々と交流することができます。これにより、グローバルなコミュニティが形成され、知識やアイデアの共有が促進されます。
2 創造性の発揮
メタバースは、自由な空間で自分自身を表現する機会を提供します。アバターや仮想空間の設計により、個々人の想像力や創造性を最大限に引き出すことができます。これにより、芸術、デザイン、音楽などの分野で新たな才能や作品が生まれる可能性が広がります。
3 ビジネスの拡張
メタバースはビジネスの領域でも大きな変革をもたらします。仮想空間上での商取引やマーケティング活動が可能となり、リアルワールドでは制約のあるビジネスの展開を超えた新たなビジネスモデルが生まれます。例えば、仮想空間内に店舗を構築し、商品やサービスを提供することで、地理的な制約を受けずに世界中の顧客にアクセスすることができます。
メタバースのデメリット
人々を魅了するメタバースのメリットがある一方、利用するときはデメリットも存在します。普及に伴うデメリットを理解し、現実世界とのバランスを保つことが課題となります。
デジタル格差の拡大
メタバースの普及に伴い、デジタル格差が浮き彫りになっています。VRやARなどの先端技術を活用するためには、高価なハードウェアや高速なインターネット接続が必要です。しかし、これらの環境にアクセスできるのは一部の人々に限られており、特に高齢者や経済的に購入が難しい人々はメタバースの恩恵を享受しにくい状況と言えるでしょう。VRヘッドセットなど専用機器の使用の課題解決には、情報やサービスに誰もがアクセスできる「アクセシビリティの向上」が必要です。今後、高齢者や経済的に参加が難しい人々にもメタバースへの興味を促す取り組みが求められます。
プライバシーとセキュリティの懸念
メタバースでは個人の情報や行動がデジタル空間に集約されるため、サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクが高まります。ユーザーのアバターやアクティビティが記録されることで、個人が特定される可能性もあり、詐欺や不正行為も懸念されます。フィッシング詐欺や仮想通貨の盗難など、メタバース内での経済活動が進む中で、悪意のある第三者が攻撃を仕掛ける可能性も否めません。このようなリスクに対処するためには、セキュリティ対策の強化やプライバシー保護の仕組みの確立が不可欠です。ユーザー自身も情報の取り扱いに注意を払い、安全な行動を心掛ける必要があります。
現実世界とのバランスの問題
メタバースの没入感が高まるほど、現実世界とのバランスが崩れる可能性があります。長時間の仮想空間での過ごし方や現実社会とのつながりの喪失が、身体的・精神的な健康に悪影響を与える恐れがあります。適切なメタバースの利用方法や時間管理の重要性を考慮する必要があります。
法律的観点でのデメリット
メタバースの発展には、法律的な観点からも様々なデメリットが存在します。以下に主な問題点を挙げてみます。
・著作権と知的財産権の問題
メタバース内では、ユーザーが自身のアバターやコンテンツを作成・共有することができます。しかし、他者の著作権や知的財産権を侵害する可能性もあります。メタバース内での著作権法や知的財産権の保護に関するルールやガイドラインの整備が求められます。
・デジタルハラスメントとコミュニティガイドライン
メタバースでは、ユーザー同士のコミュニケーションが行われますが、それによってデジタルハラスメントや差別的な行為が起こることもあります。このような問題に対処するために、明確なコミュニティガイドラインやルールの設定が必要です。また、ユーザーの安全を確保するための報告制度や対応策の整備も重要です。
・規制と法的な担保
メタバースの拡大に伴い、新たな法的な課題が生じる可能性があります。例えば、仮想通貨の取引や税務上の問題、仮想世界での犯罪行為や不法行為への対応などが生じる可能性があります。これらの課題に対応するために、適切な法的枠組みと規制が必要です。メタバース内での活動や取引の透明性と公正性を確保するために、デジタル空間に特化した法律や規制が必要とされます。
また、国境を越えたメタバースの運営や取引には、国際的な法的協力や調整が不可欠です。異なる国の法制度や文化の違いを考慮しながら、国際的な規制や合意を形成することが求められます。さらに、メタバースにおける仮想通貨やブロックチェーン技術の利用には、金融行為の監視や規制が必要です。仮想通貨の安全性と安定性の確保、マネーロンダリングやテロ資金供与への対策、詐欺行為や不正使用への対応が重要な課題です。
おわりに
メタバースの発展は、私たちの日常生活や社会に多くのメリットをもたらす一方、潜在的なデメリットも存在します。デジタル格差、プライバシーやセキュリティの懸念、現実世界とのバランスの問題など、これらのデメリットに対処する必要があります。利点を最大限に活用し、技術と倫理のバランスを取りながら、メタバースをより豊かな社会の構築に活用していくことが重要です。