「AI(人工知能)」は現在身近な存在となっていますが、その本質や仕組みは分からず「なんとなくこういうもの…?」として理解している方も少なくはないかと思います。
本記事ではエンジニアになるなら知っておきたい基礎知識として、「AI(人工知能)」とはどのようなものかについて詳しくご紹介していきます。
記事の概要
AI(人工知能)とは
AI(人工知能)は、Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)の略称です。
英語で「人工的な」という意味を持つ「Artificial」、そして「知能・知性」という意味を持つ「Intelligence」が組み合わさった単語です。
一般的には「コンピューターを用いることによって人の知能を人工的に再現したもの」という意味として広く知れ渡っています。
しかし現状、本当の意味での「人工知能」はまだ存在していないと言われています。
「本当の意味」というのは、「人と全く同じように考えられるコンピューターがまだ完成していない」ということです。
人工知能というのはロボットそのものではなくて、ロボットで言うところの「脳みそ部分」に当てはまると考えられているのです。
AIの定義
一般社団法人「人工知能学会」では、AIという言葉を作ったジョン・マッカーシー教授の言葉を「知的な機械。知的なコンピュータープログラムを作る科学・技術」という風に翻訳し、紹介されています。
ただ学術的な視点においては、「AI(人工知能)の言葉は多義的で、この定義は専門家間においても明確に定められていない」とされています。
AIに関しての研究が日々進んできている現在でも、それぞれの研究者で異なる定義が唱えられているのが現状だと言えるのです。
AIの分類
基本的にAIは、「汎用性AI」と「特化型AI」の2つに分けることができます。
一般的なAIのイメージとして強くある「人間に近い考えを持つことができるコンピューター」は「汎用性AI」に分類されています。
一方で、「人間の能力の一部分を代替することができるシステム」は「特化型AI」に分類されるというわけです。
双方はどちらもAIとして定義されていますが、機能はそれぞれ大きく異なります。
汎用性AIと特化型AI
まず汎用性AIとは、特定の課題にだけ対応できるというわけではなく、人と同じように考え、いろいろな課題を処理することができるAIを指しています。
人間は想定していなかったことが発生した場合でもこれまでの経験に基づき、総合的に判断して問題解決に導く手段を見つけ出します。
こういった人間と同じように課題処理能力を持っているAIを「汎用性AI」と呼んでいます。
現状、汎用性AIの実現方法は未だ明らかになっていませんが、特定の領域においては人間以上の能力を発揮できるAIも一部存在しています。
一方、「特化型AI」は、限定された領域内の課題処理に特化しており、自動的に学習・処理を行ってくれるAIを指しています。
具体的なこととしては、画像認識や音声認識に加え、自然言語の処理といった技術を持っているAIなのです。
現在はビジネスの領域において、非常に広い範囲で活用されているのが特化型AIなのです。
強いAIと弱いAI
アメリカの哲学者であるジョン・サールが提唱した言葉として、「強いAI・弱いAI」という分類方法もあります。
「強いAI」は、人間と同じような自意識をそなえており、すべての事柄に対して認知能力が必要な作業も対応可能なAIを指しています。
一方「弱いAI」は、人間の知性の中でも一部分を代替して、特定されたタスク処理のみを行うAIを指しています。
つまり「AIが人間の意識・知性などを持つか」の観点により、強いAI・弱いAIが分類されるというわけです。
また前項で述べた汎用型AI・特化型AIは、「人間同様、広い範囲での課題を正しく処理できるか」という課題処理の観点で分類されています。
「強いAI・弱いAI」と「汎用型AI・特化型AI」の関係性というものは、どのような観点からAIを判断するかという基準から分類されているということを押さえておきましょう。
AIの歴史
ここでAIの歴史をたどり、どのような流れを経て現在のイメージが確立されたのかを確認していきましょう。
第一次AIブーム:推論・探索
初めに「AI(人工知能)」という言葉が用いられたのは1956年です。
アメリカのダートマス大学で開催されたダートマス会議にて、計算機科学者・認知科学者であったジョン・マッカーシー教授により提案されたものです。
当時、ダートマス大学の教授ジョン・マッカーシーが「人間と同じように考えることができる機械」を「Artificial Intelligence(人工知能)」という風に名付けました。
AIの最初のブームが訪れたのは、1950年代後半~1960年代です。
当時は「推論」「探索」といった技術によって、簡単なゲームやパズルなどには明確なルールが存在し、その問題に対して高い性能を発揮できるAIの存在に大きく期待が高まっています。
ただ、現実に存在する複雑な問題は解くことができないという性能的な限界が見えてしまうことで、そのブームは右肩下がりとなってしまいます。
第二次AIブーム:知識・エキスパートシステム
AIの第二次ブームとなったのは、1980年代です。
この時代ではAIに「知識」としてルールを教え、そのルールを元にして問題を解決させる「エキスパートシステム」の研究が進められていきます。
エキスパートシステムは、「○○の場合は○○をする、それ以外であれば△△をする」といったような知識を与えられ、それをルールとして構成された人工知能です。
自ら学習するような仕組みではありませんが、与えられた知識をフル活用して考えられる限りのことを予測し、判断や対処方法を機能させます。
ルールが多いほどその正確性は向上しますが、必要な情報を人の手によってコンピューターに教えなければなりません。
また実際に活用可能なのは、特定の領域内にある限定された情報がほとんどです。
教えられる知識量に限界が見られたことから、1995年より再びAIのブームは降下していきます。
第三次AIブーム:機械学習・ディープラーニング
第三次AIブームが訪れたのは、2000年代に入ってからでした。
ブームが再熱した要因は、AI自身が多くのデータから知識を獲得できる「機械学習」の実用化が進んだことだと言われています。
また、2006年頃には知識を定義できる要素をAI自身が習得するという「ディープラーニング」が提唱されたことにより、AIブームにより拍車がかかりました。
AI関連の重要な技術
AI関連の重要な技術をいくつかご紹介します。
機械学習
機械学習は、コンピューターが多くのデータを学習して、自ら分類・予測といったタスクを進める算法を自動構築する技術を指します。
現在使用されているAIの中核を担っている技術と言っても過言ではないでしょう。
こちらの機械学習の原型は第一次AIブームである1960年代より登場しているのですが、多くの学習データを処理するための計算リソースが必要であったことから、実用レベルに到達するまでに時間がかかってしまったのです。
2000年代以降のコンピューターの性能が向上したこと、2010年代よりビッグデータを取り扱うようになって多くの計算リソースを得ることができたことによって実用化が進められたとされています。
機械学習の手法は3種類あり、主に教師ありの学習・教師無しの学習・強化学習に分けることができます。
そして機械学習の技術の一つには、第三次AIブームのきっかけとなった「ディープラーニング」が存在しているのです。
ディープラーニング
ディープラーニングは、ニュートラルネットワークの隠れ層を複数にすることによって、コンピューターが「特徴量」を判断するという手法です。
従来の機械学習とは違って、学習するのに必要なデータのみあれば自ら学習に必要となる「特徴量」を抽出することができるので、従来人の手で行っていた機械学習では実現できなかった高性能な認識を行うことが可能になったのです。
どのような特徴量が重要であるのかを自動的に学習してくれ、人間が考えた特徴量を用いるよりも精度が高まったとされているのです。
ニューラルネットワーク
ニュートラルネットワークは、データ入力を行う入力層・データ出力を行う出力層・入力層より流れる重みを処理してくれる隠れ層の3つで構成されています。
人間の脳を構成する神経細胞「ニューロン」は、基本的に電気信号を使って情報の伝達を行います。
情報伝達を行う速度はニューロンと、そのニューロンの結合部分である「シナプス」の結合強度により異なります。
ニューラルネットワークにおいては、層の間にあるニューロンとニューロンのつながりの強さを重み付けによって表現します。
AIの活用事例
AIの活用事例として代表的なものをいくつか見ていきましょう。
【物体認識】Roomba(ルンバ)
人工知能を活用し、周囲に存在している物体を認識するという技術を「物体認識」と言います。
物体認識を活用した大きな事例と言えば、iRobot社から提供されたロボット掃除機である「Roomba(ルンバ)」です。
このRoombaには光学センサーより受け取ったデータを元にして、家具位置・間取りといったものを把握することができる人工知能がそなわっているのです。
家具に接触せず効率的に掃除ができるRoombaは、人の労力を削減していき、掃除の常識を180度変えました。
【画像認識】顔認証ゲート
人工知能を活用することで画像のデータから特定のパターンを見つけ出し、認識することができる技術を「画像認識」と言います。
画像認識を活用した事例としては、Panasonic社から提供されている「顔認証ゲート」があります。
こちらの顔認証ゲートは日本でも各地の空港で取り入れられており、ICパスポートの顔画像とカメラで撮影した顔の画像を照合し、顔認証を行っていきます。
顔認証ゲートにより、出入国の審査で発生する審査官の負担を大きく削減できたことに加え、出入国の審査もスムーズに行えるようになりました。
【音声認識】Siri
人工知能を活用することで、音声データより声の特徴や言葉の内容を認識できる技術を「音声認識」と言います。
Apple社の製品に搭載されている「Siri」の機能にもこちらの音声認識の技術が活用されているのです。
音声データの波形をテキストデータに変換し、指令の内容がどのようなものかを判断するのがSiriの仕組みです。
Siriの機能により、手を使っての操作を行わずに済むため、時間短縮にもつながります。
【チャットボット】ローソンクルーのあきこちゃん
人の質問・依頼に対して人工知能が受け答えを行い、コミュニケーションをとる技術を「チャットロボット」と言います。
このチャットロボットの代表格として、「ローソンクルーのあきこちゃん」があります。
ローソンクルーのあきこちゃんには深層学習が活用されており、ユーザーからのさまざまな問いかけに対しての回答パターンを人工知能が蓄積しているのです。
おわりに
本記事ではエンジニアになるなら知っておきたい基礎知識として、「AI(人工知能)」とはどのようなものかについて詳しくご紹介しました。
AIは日々進化を遂げており、今後どのようなものになっていくのかと不安に思う方も多いでしょう。
しかし、基本的にAIは人間の生活を豊かにしてくれるものです。
AIに関して理解を深め、上手く活用していきながら新しい社会を築き上げるというような思考を巡らせるのが良いでしょう。